ローマ時代に作られた
メドゥーサの頭部を
象ったペンダント
どちらも人工的に採掘できるようになるまで、主に海辺に打ち上げられたものを拾うといった方法で採取されていたのも、同一視された要因と考えられています。
ジェットには「ハードジェット」と「ソフトジェット」の2種類があります。
この2種類のジェットの違いは、ハードジェットが粘りと弾力性をもち、精巧な加工に適しているのに対し、ソフトジェットはもろく、加工や熱に弱い点にあります。ソフトジェットは長い年月に耐えることなく壊れてしまうので、現存するジェットの遺物は、ハードジェットでできたものばかりです。
硬さは、琥珀や真珠とほぼ同じ・・・やわらかい
ジェットの硬度(モース硬度)は、2.5~4。これは琥珀(2~2.5)や真珠(3.5~4.5)とほぼ同等で、もっとも硬いダイヤモンドは硬度10です。
重さは、オニキスの半分以下・・・かるい
ジェットの大きな特長のひとつは、その「軽さ」です。比重で比べると、宝石でもっとも軽い「琥珀」の1.08に次ぐ1.33。ちなみにオニキスは2.61で、重さではジェットの倍以上となります。
組成・・・石炭の仲間
化学的分析によれば、ジェットは「瀝青炭(れきせいたん)」という炭素物質に分類され、燃やすと石炭特有の匂いを発します。
中国産の現代ジェットで
作られたミニチュア家具
しかし、19世紀末にウィットビーの鉱山は閉鎖され、ジェットの採掘は不可能となりました。近年、ウィットビー産とほぼ同質の良質なジェット原石が中国で発見されるまでの約100年間、ジェットが「幻の宝石」と呼ばれていたのは、このような理由によるものです。
紀元前1万年に南ドイツで作られた
幼虫を象ったお守り
(長さ38ミリ)
ローマ時代(3~4世紀)に作られた婚約のメダル
(直径50ミリ)
古代ローマ人がイギリスを占領していた時代、ジェットは先住民族であるケルト人からローマ人へと伝えられ、「黒い琥珀」と呼ばれて珍重されました。リング・ブレスレット・ネックレス・ペンダントなどの装身具をはじめ、髪留めや短剣の柄、サイコロなどが、イギリス国内の古代ローマ遺跡から発見されています。
その後、古代ローマ帝国が衰退し、4世紀にローマ人がイギリスから去ると、ローマ人に愛されたジェットは次第に姿を消していきました。
巡礼者への土産物として
16世紀スペインで作られた
聖ヤコブ像
(高さ150ミリ)
特にスペインでは、「ヒーガ(higa)」と呼ばれる手の形をしたお守りが「邪眼(evil eye)」除けとして、王家の子どもたちに身につけられていました。また9世紀頃から、サンティアーゴ・デ・コンポステラの聖ヤコブ(サンティアーゴ)寺院への巡礼者向けの土産物にジェットが使われ、聖ヤコブを象った置物などに加工されて13世紀にはジェットの売買が繁盛していました。
しかしその後、17世紀の宗教改革により、偶像崇拝が非難されるとともに、ジェットの装身具は身につけられなくなり、ジェット産業もこの時期またもや衰退しました。
ジェットジュエリーを
身につけた女性
(1870年頃)
アイテムとしては、ネックレス、ブローチが主流で、ペンダント、イヤリング、ブレスレットも変化に富んだデザインで作られていました。
流行の終焉
ポーセレン&ジェット
ブローチ(穐葉アン
ティークジュウリー
美術館蔵)
ファッションマガジン
「黒い宝石」としての美しさは、モーニングジュエリーという活用の枠を超え、カジュアルから華やかなパーティーまでさまざまなシーンで活用でき、装いに気品と華やぎを添えるものと認知されています。
アンティークを手に入れるしかなかったジェットの世界。1993年に中国で新たにジェットの鉱山が発見されたことで、20世紀末の日本で「ヴィクトリアンジェット」として再びその姿を現したのです。
19世紀、長く夫君アルバート公の喪に服したヴィクトリア女王(1819-1901)に、黒の装いに合う装身具として愛用されたジェットは、イギリスを中心にヨーロッパで大流行し、現在でも多くの国で正式な「モーニングジュエリー Mourning Jewellery」(喪に服する期間に身につけられる装身具)とされています。(上は、若き日のヴィクトリア女王。1842年頃。穐葉アンティークジュウリー美術館蔵)
日本でも、喪の正装は黒の洋装
イギリス王室にならって日本でも明治期以降、喪の正装を黒の洋装とし、黒いジュエリーをモーニングジュエリーとして採用しています。
すべてモーニングジュエリーとして使える「ヴィクトリアンジェット」
モーニングジュエリーとしての装いのヒント
葬儀・告別式◆すべて黒色、シンプル、控え目が基本
通夜◆紺・グレー・黒など地味な服装で
法要◆控え目な色づかいの服にお気に入りのジェットを
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穐葉アンティークジュウリー美術館 那須高原にある日本初のアンティークジュエリー専門美術館 |
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大英博物館(ロンドン) イギリス国内で発見された紀元前2500年~中世までのジェット加工品(ビーズ、リング、ボタン、ペンダント、ブレスレットなど) |
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ヴィクトリア&アルバート美術館(ロンドン) 19世紀のジェットジュエリー |
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国立考古学博物館(エディンバラ) 青銅器時代のネックレスなど |
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ヨークシャー博物館(ヨーク) ローマ時代のジェット(ビーズ、ヘアピン、ペンダント、ブレスレットなど) |
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キャッスル博物館(ヨーク) 英国19世紀のウィットビーのジェット工房など |
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ウィットビー博物館(ウィットビー) 英国・ウィットビーにある博物館。ウィットビー近郊で発見された青銅器時代およびローマ時代のジェット(ビーズ、リングなど)、14世紀のクロス(十字架)、19世紀のジュエリーやオブジェ。 |
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ウィットビージェットワークス(ウィットビー) ジェット加工の作業工程を再現した、19世紀の工房 |